
もうかれこれ20年以上前になる。当時大学生だった僕は、所属していた
大学の調査の一貫で埼玉県の秩父神社を訪れた。「秩父の夜祭り」として名高い
秩父神社の冬の祭りは、300年以上の伝統を誇り、京都祇園祭の山鉾、飛騨
高山祭の山鉾と共に日本三大曳山祭の一つとして全国的に知られている。
僕たちが調査に出かけたのは、その冬祭りのいわば若者向け予行演習とも言う
べき夏の例大祭だった。
当初よそ者の学生がうろうろしていても、当然のことながら町の人には一向に
相手にしてもらえなかった。調査のために当たり障りのない質問をしても、誰も
まともに応えてくれない。途方に暮れてその辺りをうろうろしていた僕ともう
一人の学生を見かねたのか、年かさの町衆が夜の宴会に誘ってくれた。
夜になって町衆たちが酒を飲みかわす会所の広間にこそこそと僕らは潜り込んだ。
みんなの酔いが回って来た時、末席にいた僕らが呼ばれコップを渡された。
「さあ飲め飲め」。連れの学生はまったくの下戸なので、さして強くない僕が
コップ酒を受ける。声援?に押されて飲み干すとやんやの喝采。
そのまま延々酒宴が続き、僕はトイレに駆け込んだ。
夜半近くになるとみんなが一斉に小型トラックに乗り込み、近くの河原へ向かった。
夏とは言え夜風がヒンヤリと肌寒い河原では、各町会の若者がもろ肌脱いで御輿と
共に川に飛び込んでいる。どうやら明日の祭り本番の前の禊ぎらしい。
コップ酒で朦朧としている僕を尻目に、もう一人の学生が上半身に入れ墨を
書き込まれ、若者たちに押されて御輿と共に川へ飛び込んだ。
翌朝会所に行った僕らは、「よそ者調査員」から「祭りの客?」に昇格していた。
祭りの夜になり、山鉾の巡行では若衆たちと一緒に綱を引き、あげくの果てには
普段はよそ者を乗せないはずの山車にまで乗せてもらった。周りの若衆たちと
身体をぶつけあいながら大勢の観客が見守る中、急な上り坂を何トンもある山車を
引っ張りあげる。その時の高揚感と一体感。僕は「調査員」であることなど忘れて、
夢中でかけ声をかけ、綱を引いていた。
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