佐藤 道代のダンス:身体を感じ、心を表し、フルに生きる試み

2007年11月

怪我の恩寵

NYのメアリー・アンソニー先生のスタジオで、11月12日にアキレス腱を切ってしまいました。
でも自分がベストを尽くしていた時に起こったことなので、悔いはありません。

父が亡くなってから、自分のために踊ることが出来なくなってしまいました。
私には踊りたい、もっと言えば生きたいという気持ちが無くなってしまったと、度々感じました。

11月にNYの先生方の元で1週間勉強しなおそうと思い旅立ちました。
昔の友達や先生に再会し、何も無くてもただ踊りたかった頃の自分を感じることが出来ました。
11月11日に、イサドラ・ダンカン国際学校のジーン・ブレシアニ先生の「神話と動き」のワークショップに参加し、踊りたい気持ちが蘇ってきました。ジーン先生は、「プラムと野菜を持って帰ってくる」という父の言葉を覚えていて、プラムパイを焼き、休み時間に父のためのティーセレモニーをして下さいました。父の命日の5ヵ月後でした。

踊り始めて、身体のあちこちに澱が溜まっていて固い事は分かっていました。
怪我をした12日は、久々に良く寝る事が出来ましたが寝過ごしてしまい、その夜、友達やサポーターを呼んでパーティーをするために買出しに奔走し、途中からクラスに駆け込みました。
メアリー・アンソニー先生は、その前日の11日に91歳になられたばかり。
クラスも、上級の人々が帰ってきていて、男性も多く、熱気に溢れていました。

フロアのウォームアップを終えて、久々に息が切れるほど自由にフルアウトで踊る事が出来て、とても嬉しかった。
自分が「このスタジオで、いつもここまで踊っていたんだ」という事を、身体の底から感じてワクワクしていました。これを天国の父に見てもらいたいと思っていました。そして、いつNYに帰ってこれるか分からないと思うと、メアリーにも今の自分の最高を見て欲しかったのです。

リズムにのり、もっと高くジャンプしたいと思って、踏み込んだその時に、壁が割れるような音がし、前に倒れたので、最初、壁が自分に倒れてきたのだと思いました。
でも立てないのと、メアリーが「It is Break(切れた)。」と言ったので、自分に何が起きたかやっと分かりました。階下に住む、理学療法士のダニエルを呼んでくださって、すぐに診てもらったら「アキレス腱が切れているから、48時間は腫れる。その後すぐに手術をしたほうが良い。」と言われました。

夫のマークさんに電話をして、「もう一度踊りたい。死なないで貴方と生きたい。」と言っている自分に気がつきました。
それまで父の死に関して後悔が沢山心に残っていましたが、「私は何時どんな時にも自分の最善を尽くしてきた。」という事も分かりました。

これらに気づいた事が、この怪我の恩寵です。

メアリーも「あなたには才能がある。パール・ラング(グラハムの元プリンシパル・ダンサー)も切ったけれど、再起したから大丈夫。」と言って元気付けてくれました。

NYの救急病院に行って応急処置をしてもらい、次の日、飛行機に乗って成田に着き、病院に駆け込みました。父も3年前にアキレス腱を切っていたので、その先生にお任せしようと思っていたら、「あなたは踊りのプロなので、別の先生にお願いする。」と、この病院を紹介して下さいました。

次の日病院に行き、即入院し、16日に手術を受けました。

経過は順調です。

1.jpg下半身麻酔が覚め、少し動けるようになった翌日に、同室の方が朝日を見ることを教えてくれました。毎朝、6時半ごろ太陽が昇るのです。そして西には富士山も見えて、素晴らしい場所です。

入院して初めて、太陽が毎朝昇る事に感動しました。
朝日を教えてくださった方は、母と同じ病気と戦っている心優しい方です。
共に朝日を見た翌日に、病院内で大腿骨頭の骨折をしてしまって、明日手術を受けられます。
今、彼女の手術が上手く行く事をお祈りしています。

私の怪我も復帰までには5ヶ月ほど掛かります。
身体に聴きながら、毎日5時間リハビリと自分の練習をする事が出来て、入院で、大変リッチな時間を頂いています。
今日は、ギブスから新しい装具に代わり、足の裏の筋肉が目覚めるのを感じました。
毎日一つの動きがもう一度出来るようになれば良いと思っています。
動きに集中すると、自分が振り付けを習得しようとしている時と同じような集中をしているのが分かります。
リハビリ室で機能を回復しようとしている人達と、ダンサーの練習は同じだなと感じました。

入院も後2日。
沢山の事は出来ないので、動きの質を考えながら動いています。

ゆっくり治したいと思います。

プロフィール

佐藤 道代佐藤 道代

モダンダンスに日本の身体言語を融合し、元型的身体言語を追求する舞踊家。
津田塾大学卒業後ロータリー財団奨学金にて留学したニューヨーク大学より修士号及び舞踊教育学科長賞を受賞。自作を日本(EXPO2005)、米国(国連)、英国(大英博物館)等、各地で公演。NYタイムズ紙に「スタイル・内容ともに洗練された作風」と評される。1998年ミュージカル「王様と私」出演。2004年NYジョイス・ソーホーで、日本女性に関する自作品の公演を行い連日満席となる。2003年、2004年舞踊批評家協会新人賞ノミネート。2005年Die Pratze観客賞受賞。2007年エッセイ「イサドラ・ダンカンの舞踊理論とスピリチュアリティー」を、「スピリチュアリティーとは何か」(ナカニシヤ出版)内にて出版。

URL:http://home.att.ne.jp/alpha/idance/

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