
サヴァン症候群と呼ばれる脳の障害をもつ青年によって書かれた本書は、人間の脳と心の謎を考える上で、実に貴重な著作である。
ダスティ・ホフマン主演の映画『レインマン』で一躍有名になったサヴァン症候群の人は、計算や記憶の面で超人的な能力を発揮すると言われているが、著者のダニエル・タメットも例外ではない。円周率を22500桁まで暗誦し、新しい言語を、文法を含めてたった一週間でマスターしてしまう文字通りの天才なのだ。彼はまた数字に色、形、質感、感情が伴って見えるという「共感覚」の持ち主でもある。
ただ、サヴァン症候群の人は、その多くが精神的・肉体的障害を抱えており、自分の内面を言葉でうまく説明することができないと言われている。ところが、ダニエルは自分の内面を生き生きと描ける稀有な才能を併せもっているのだ。
孤独な障害者が、数を友達にし、家族の愛情に支えられながら、徐々に心を開いて他人とコミュニケーションすることを覚え、ひとり立ちしていく心の軌跡は感動的である。
サヴァン症候群は、人間の偉大な可能性を垣間見させてくれる貴重な本である。読者はきっと改めて障害とは何かを考えさせられるだろう。
近代の合理主義的な社会は、理性による自由と平等の実現を目標にかかげ、古い因習や宗教からの脱却を推し進めてきた。日本も、戦後の民主主義の普及により、近代社会の仲間入りを果たし、めざましい経済の発展を通して、世界有数の経済大国にのしあがった。
しかし、経済的な発展とは裏腹に、多くの人が心の拠り所を失い、殺伐とした社会の中で、孤独にあえいでいるのも事実だ。その原因の一端を広い意味での宗教心の喪失としてとらえ、これからの時代の宗教心のあり方を探ろうというのが著者の狙いである。
著者の山尾氏は経済至上主義に現代人のニヒリズムの原因を見ているが、個人主義を一概に否定しようとしているのではない。古い因習や宗教性から脱して自由になった個人を尊重し、一人一人の個性や多様性を生かしながら、万物に宿るカミ(従来の神と区別するために著者はあえてカタカナ表記を使っている)と対話する、アニミズム的な宗教心こそ、これからの時代に必須なものだと説いているのだ。そして、そのようなアニミズム的な宗教を生涯かけて実践した先達として、俳人の小林一茶に着目し、独特の観点から、一茶の生き方や俳句に迫っている。
最近、世界中に横行するテロリズムの背景には宗教の問題がからんでいる。宗教は人々の結束を固める基盤になる力をもっている反面、他者を排除するという矛盾した側面ももっているのだ。宗教の原型ともいうべきアニミズムに、普遍的な宗教の可能性を探ろうとする山尾氏の観点は、集団主義的な宗教に内在する矛盾を乗り越える一つの方策としても、注目に値すると言っていいだろう。
本書が単なる文献学にはない透明な「清涼感」をもっているとすれば、著者の山尾氏自身が、圧倒的な屋久島の自然の中で暮らすアニミズムの体現者であるというところからきているのだろう。
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